SERVE公開3周年記念インタビュー |  |
聖学院学術情報発信システム「SERVE」は2012年2月28日に公開3周年を迎えます。この間、SERVEの活動にご理解とご協力をいただいた皆様に厚く御礼申し上げます。 |
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 | 公開3周年記念として、発足当初よりお世話になっている渡邉正人先生にインタビューを行いました。 |
<SERVE公開3周年を迎えて>渡邉先生: | 感慨深いのは本当によくここまで成長したなっていうことですね。特に保存と発信の両方の役割を持たせるというコンセプトでスタートしたじゃないですか。聖学院としての考え方としては正しかったと思うけど、当時はやっぱりリポジトリとして背反するものをまとめて、それを定着させるということの具体的な道筋が実は見えてなかったわけですよ。だけど図書館の皆さんの努力や色々な方々の後押しがあって、いまや大学情報化の中核の位置に来ましたでしょ。だから、当時では予想もつかないぐらいに育ってきたっていう感じで。図書館の研究・教育の拠点として、大学の中で位置づけるという課題があったので結果的にはね、そこにスポッとおさまった。それがすごく感慨深いですね。 |
担当者: | そういう意味ではSERVEのつくりが弱い部分を、今後どう強化するか、他のDBとどう連動するかが課題ですね。後は自然とコンテンツが集まってくるようになればいいな、と思います。 |
<これからのSERVEに期待していること>渡邉先生: | リポジトリとしてのコンテンツは、教員がしっかり世の中に読まれる論文を書くことが大事なことなんだろうな(笑)と思います。ですので、今後期待するのはアーカイヴの部分が大きいですね。例えば、今後シラバスや授業データもSERVEを永久保存の場所にしたい。でもそうすると今度は使い勝手とか、体系化したりすることが必要と思っています。 |
担当者: | 過去のものと連携して探せないと、というのはありますね。 |
渡邉先生: | そう。ただ単に収納するだけじゃないアーカイヴをどうやって作っていけばいいのかというのが教育として考えることですね。 |
<「妖怪マンガと現代」という論文について>渡邉先生: | もともとは、ゼミ生の卒業論文テーマなんですよ。それを考えていく中で、学生の卒業論文に収まらない部分を自分なりに民俗学の文脈でとらえ直してみるとどうなるのかってことだったんですね。民俗学には元々、妖怪研究があって、それは日本人の心の構造を知るために妖怪を研究するという立場になるんですね。明治時代に井上円了という東洋大学の創始者がいるんですけど、この人は「妖怪なんていうのは無知蒙昧の迷信だ。科学が進めばその後にやがてなくなるだろう。」ということで研究したら逆に妖怪にはまっちゃった、という人なんですね。このコンセプトは大変おもしろくて、裏返せば科学が進んだのになんで妖怪みたいなものを人は信じるのかという話ですよね。しかも今まで民俗学の世界では屋外の自然や村や道端だとかそういう場所に妖怪がでていたのに、最近はもっぱら表題にある通り、マンガとかアニメとかそういったところに結構登場してくる。それのスタートが、水木しげるの『ゲゲゲの鬼太郎』*1なんですけど、その『ゲゲゲの鬼太郎』も最初は妖怪マンガじゃなくて怪奇マンガとよばれていた。 |
渡邉先生: | うん。京極夏彦氏も妖怪マンガは作られたジャンルで、元の日本にはない新しいものだといっている。ならば、1960年代以降妖怪マンガというジャンルが作られて、むしろ非常な勢いで増えている。それは何故なんだろう?という、その実状を考えたのが今回の論文なんです。で、何故なんだろうの部分が実はまだあんまりよくわかってなくて…。 |
渡邉先生: | そう。それで書かなきゃと思ってる第二編があるんですけど、時間がなくて(笑)。現代人の心のあり方と、妖怪という視点をね、考えてみると難しいけどおもしろいテーマになるんじゃないかなって思ってる。そういうところを皆さんも共感してくれるとうれしい。 |
担当者: | 論文の中で、鬼太郎は「人間は何をすべきか、という問題を突きつける存在」と書かれていますが、この異界のものからだからこそ受け入れられる問いというのがあるな、と思いました。論文で紹介されている『夏目友人帳』*2の主人公も人間の友達が出来る前に妖怪の友達ができますが、さびしいもの同士だと分かっているからこそ友達になれるという部分があるのでしょうか。それは今の学生の友達作りにもつながる部分があるのかなと感じました。 |
渡邉先生: | そうですね、『夏目友人帳』は今アニメでは第四シリーズになってますよね。かなり"うけ"ているけど、あれがなんで"うける"のかって思いますね。本当はね、もっと民俗学的な意味では優れてる妖怪的な妖怪マンガってたくさんあるんですよ。『もっけ』*3とか。で、『夏目友人帳』は今まとめてくれたみたいに実はぜんぜん違うんですよ。妖怪というものが登場しながら、実は民俗学的な妖怪ではまったくないんですね。でも『もっけ』はあんまり"うけ"なくて、『夏目友人帳』はやっぱり"うける"んです。 |
担当者: すみません、『もっけ』はよく知らないんですけれど
渡邉先生: | 『もっけ』は古典的、正統的感覚の残るマンガですね。それこそ妖怪と目を合わせちゃいけない、つきあっちゃいけないというルールの中で、でもかかわらざるをえない暮らしの感覚ね。そういう意味で『もっけ』はちょっと昔の視点とはズレてますが、感覚はやっぱり古典的ですね。でも『夏目友人帳』はぜんぜん違う。 |
担当者: | 出てくる人間がとっても妖怪的で、妖怪のほうがフレンドリーで。でもそちらの方が受け入れられるというのは受け入れられる土壌が今あるって事なんでしょうか。 |
渡邉先生: | そうでしょうね。そこがおもしろい。だから現代という時代の中で妖怪マンガをとらえなおす価値はあるだろうなと。さっきの話に戻ると、それをもっと民俗学的にやりたかったわけですけど、私は所属学科がうつるのでそれを少し心の解明の方へ変えていこうかなと思っています。 |
<おすすめの本>渡邉先生: | 『日本妖怪学大全』まずは論文に関係した本で、そういう事を勉強したいと思っている人向けに。今だと一番体系的で現代的なまとまりがあるのはこれ。いい本です。一通り勉強できますね。 『午前零時のサンドリヨン』二冊目は相沢君のですね。新刊*4もいいんですが、処女作は応募・出版のときから僕もかかわっていて、手直しを手伝ったり、アイデアが生まれるときに立ち会ったりしているので思い入れがある本ですね。 『建築家の言葉』最後は本当に異質なんですけどね。これは自分が物を考える時のヒントを今もらっている本です。建築家の言葉をそのまま抜き出していて解説しているだけですが、含蓄のある言葉なんです。建築は、もともと思想や歴史など、いろいろな学問分野での比喩として使われることが多いんです。そういう事も含めて自分がものを考えるときにすごくヒントを与えてくれるんですね。だから、最近は困ったときにぱらぱらと見るようにしてます。なんかこうボーっとしながら読んでると、フッとひらめきを与えてくれていることが多いですね。こういう本を紹介する人も多くないだろうと思ったので「これは、いいですよっ!」と推したいです。 |
| ※1:『ゲゲゲの鬼太郎』全9巻 水木しげる作, 講談社, 1968 ※2:『夏目友人帳』1~13巻(以下続刊) 緑川ゆき作, 白泉社, 2005 ※3:『もっけ』全9巻 熊倉隆敏作, 講談社, 2002 ※4:『ロートケプシェンこっちへおいで』 相沢沙呼著, 東京創元社, 2011 |
オススメ① | オススメ② | オススメ③ |
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小松 和彦編『日本妖怪学大全』 集英社 2003.4 図書館所蔵あり(3階書架) 388.1||Ko61 | 相沢 沙呼『午前零時のサンドリヨン』 東京創元社 2009.10 図書館所蔵あり(2階推薦図書) 913.6||A26g | | X-KnowledgeHOME編『建築家の言葉』 エクスナレッジ 2010.10 図書館所蔵 なし |
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公開3周年目にしてSERVEスタート時からの協力者、渡邉先生の登場です。先生は去年のCSI委託事業報告交流会の
ポスターにも登場されています。ご紹介いただいた論文も、にゃんこ先生やら『遠野物語』やらと盛り上がりすぎて削除した部分がたくさん(泣)。あっという間の一時間でした。(菊)
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