SERVE公開四周年記念インタビュー |  |
聖学院学術情報発信システム「SERVE」は2013年2月28日に公開4周年を迎えました。この間、SERVEの活動にご理解とご協力をいただいた皆様に厚く御礼申し上げます。 |
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公開4周年記念として、日本文化学科 川口さち子先生へインタビューを行いました。 |
<1. SERVEやリポジトリなどの利用について>川口先生: | 同じ分野の日本語教育の先生方がどのような論文を書いているのかをチェックするのに活用しています。また、自分自身の論文を人に紹介する時など、ダウンロードしてもらうだけでよいというのは、便利になったと思います。 |
川口先生: | 論文にも書いていますが、自律学習を支援する工夫ということで、とくに留学生には、e-ラーニングやウェブサイトが非常に有効なので、勧めています。 また、授業でi-Padを使っていますが、漢字の検索に限らず、学生が自分の国の料理などを紹介したい時に検索して「これです」と。 昔は教材を私が持っていきましたが、今はその場で調べて、見ることができるので、本当に便利ですね。 |
<2.論文について>川口先生: | きっかけは、2008年に聖学院で非漢字圏の学生募集が始まり、彼らを対象としたプログラムを作ることになったことです。 非漢字圏の学生達には、漢字をしっかり教えなければいけません。私は、それまで、あまり非漢字圏の学生に教える機会がなかったので、漢字をどうやって教えようかと考えました。 そこで、ヨーロッパという非漢字圏地域で実際にどう教えているのか調べてみようと思い、フランスとドイツを中心に調査を行いました。 フランスにあるヨーロッパ日本語教師会という機関に協力していただき、メーリングリストでアンケートを行いました。 同時に、現地を訪ね、インタビューをしたり、授業の見学をさせていただいたりして示唆を受けました。 その成果を、帰ってきてから、本学での漢字教育にも応用しています。 |
担当者: | ヨーロッパでは、学生が後輩に教えるとか、グループで勉強するなど、自主学習の習慣ができていますね。また、その支援体制も、構築されているとありましたが、日本や本学における支援体制に対して先生のお考えがあれば。 |
川口先生: | 応用しようと思っていますが、難しい点があります。気質が違うんですね。 ヨーロッパ、特にドイツの学生というのは、自立心がとにかく高くて「先生に教えてなんかもらわなくてもけっこう」という面があり、自分で調べて自分でどんどんやっていくことが好きなんですね。けれど、そういう気質がなかなかアジアの学生にはないんです。「先生は教えてくれるもの」という固定観念があるので、自分たちで学んでいくという雰囲気を育てるのが難しい。 フランスのある大学には、課題で学生が記事を載せているブログがあります。自分の町や好きなところを紹介したものを、教師のブログにアクセスして載せる。そうやって漢字を実際に使ってみることは非常にいいなと思ったんですが、日本に留学している学生たちはアルバイトなどに忙しい。このような課題に取り組むという時間が学生達にはないくらいに(苦笑)。 Moodleも、向こうにいたときに知りました。ここには書きませんでしたが、大学ではストライキで授業ができない状態の中、Moodleで教師が授業を発信し、学生達もそこにアクセスするということが行われていました。 先日、Moodleの講習会を受けましたが、作るのは大変だなと感じました。ブログにしてもMoodleにしても活用できればいいなと思いましたが、自分一人でそれができるかなと思いました。でヨーロッパの先生方は持ち時間数も少ないし、学生もアルバイトをしていない。 |
担当者: | 勉強が当たり前。復習・予習の時間が確保できている。 |
川口先生: | そうなんですよね。その辺がなかなか難しいなと感じています。 |
担当者: | 例えば、本学では教育ICTについて検討が進んでいますが、教材を作るなどに関連して、ICTや図書館が支援体制ということでお手伝いできるようなことはございますか? |
川口先生: | 実際にフランスで調査した時に、問題をチームでつくり、さらにそれを落とし込むなどの技術面をカバーしてくれるスタッフがいました。そういう人がいれば、動かしていけるのではないかと思います。 |
<3.今後の研究予定>川口先生: | この調査はフランス・ドイツが中心でした。昨年の夏、スウェーデンで講演をした際にうかがったら、調査協力をしていただけるということでしたので、今度は北欧で調べたいと思っています。 北欧はインターネット授業で遠隔教育が進んでいます。その成果を見て「おお、これもすばらしいな」と思って・・・。 ですから、興味のあるところは、漢字教育だけでなく、教育全般ですね。元々私の専門は教授法なので、いかに教えるかということに興味があります。ですから、そういうところを調査していきたいですね。 あとは、本学の非漢字圏の学生に、いかに漢字に興味をもたせて教えていくか、ということです。何度見ても覚えられないという学生もいます。そういう学生に、いかに動機付けをして教えられるか。それを、実際の授業の中で色々と研究していきたいなと思います。 |
<4.授業を通して学生に伝えたいこと。>川口先生: | 日本語教授法講義の授業のなかでは、いろいろな教授法を教えています。 とくに学習者主体の教授法という、自分で考えて法則を見つけて学んでいく教授法もあるんだよ、と教えています。それを通して、学生たち自身にも自分で考えながら学んでほしい。学び方のおもしろい方法を知ってほしい、と思っています。 授業を通して自分で学び方を見つけるということは、学習の自律にもつながっていくと思います。 それからもう一つは、日本語を客観的に、見るということ。日本人の学生たちは、外から日本語を見ていないんですね。そこで、私はフランス語で模擬授業のデモンストレーションをするのですが、それを示して外国人が日本語を学ぶときにどのように大変かというのを、体験してもらいます。そうすることで、日本語はどんな言語なんだろうっていうことを考えてもらうきっかけになればいいと思っています。 |
<5.お勧めの本>川口先生: | 1点目は定延利之編著、『私たちの日本語』という本です。 これは非常にトピックが身近です。ゼミではこの中から何箇所かを一緒に読んで、各自のテーマを見つけるきっかけにしています。章トピックには「変な看板」とか、「あ゛」等の「ネオ濁音」、語尾に「ぴょん」などをつける「キャラ語尾」、「役割語」の話などがあります。授業でも使えますし、学生が一人で読んでもいい。この著者は、新しいことを研究されていて、おもしろいですね。 |
| 2冊目は漢字をテーマにしたもので、笹原宏之著、『日本の漢字』です。漢字の由来とか、日本語の文字体系は1つではなくて5つあるとか、中国と韓国と日本での漢字表現の違いとか韓国にも国字があったとか・・・。雑学的に読んでもおもしろいでしょうかね。 |
| あと同じ笹原宏之氏の著書、『訓読みのはなし』。前の本と併せて読むのがおすすめです。漢字文化圏の台湾やベトナムにも「訓読み」現象があるといったことが紹介されていて、とてもおもしろいと思います。 |
| オススメ① | オススメ② | オススメ③ |
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定延利之編著 『私たちの日本語』 朝倉書店 2012.2 図書館所蔵あり(3階書架) 810||Sa13 | 笹原宏之著 『日本の漢字』 岩波書店 2006.1 図書館所蔵あり(2階推薦図書) 081||I95(3)||991 | 笹原宏之 『訓読みのはなし』 光文社 2008.07 図書館所蔵あり(3階書架) 811.2||Sa72 |
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SERVEも公開4年目を迎えました。今回は川口先生から留学生、特に非漢字圏からの留学生への漢字教育についてお話をうかがいました。
本学のキャッチコピーに「面倒見のよい大学・入って伸びる大学」があります。学生それぞれが、学び、成長して卒業していく、そんな大学でありたい。そして、それをサポートしていきたいと教員も職員も考え活動しているということを改めて感じました。
図書館もまた、学修・教育を積極的に支援していく場と人でありたいと思います。(菊)
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