登録3000件突破記念インタビュー

SERVE登録3000件突破記念インタビュー
**************************************************************************************
SERVEのコンテンツは、多くの方の協力のおかげで、3,000件を突破しました。今回はその記念すべき3,000件目に当たる「保育所における保育士の意思決定:宮城県名取市閖上保育所の東日本大震災避難事例に学ぶ」(『聖学院大学論叢』巻号)の執筆者・田澤薫 先生にインタビューを行いました。
<1. SERVEの登録件数が3000件を突破いたしました。SERVEにに関することや普段大学図書館を利用されていて何か感じることがございましたらお聞かせください。>
田澤先生:私自身はそれほどたくさんの論文を書いている訳ではありませんので、登録数の数に驚くばかりです。小規模な大学であるにもかかわらず、これほどたくさんの登録件数を重ねているという点で、進んでいる印象を持っています。
SERVEに関しては自分の論文をすぐに見ることができるので助かっています。いつでもどこからでもタブレットさえあれば見られるというのは便利ですね。
図書館に関しては、ILLがとても素晴らしいですね。家からでもネットで依頼をかけられ、更に一度に多数の依頼をしてもいつも気持ちよく受け付けてもらえるので、大変助かっています。突出してよいのではないかと感じています。
担当者:ありがとうございます。担当者にとってはとても励みになるお言葉です。
図書館の資料は、集めるだけでなく、利用されてこそ価値があるものですから、これからもおおいに利用して頂きたいと思います。

<2.SERVEで公開されている論文について>
田澤先生:これは東日本大震災をきっかけに書いた論文です。3000件というタイミングで取り上げてもらい、ありがたく思っています。
私にとっては珍しく共著論文です。もう一人の執筆者である佐竹悦子先生は、宮城県名取市閖上(ゆりあげ)保育所の所長だった方です。
私は7年前まで仙台市に住んでおり、宮城県の保育者養成校に勤めていました。また、自分の子どもも仙台の保育所でお世話になりましたので、あの震災は、他人ごととは思えないことでした。
そんな中、閖上保育所が土台ごと流されてしまったにもかかわらず、一人の犠牲者も出さずに、子どもたちを全員無事に避難させることができたという話を聞きました。さらに、その時の所長が以前にお世話になった佐竹先生だったと知り、すぐに避難所に連絡をしたことがきっかけで先生からお話を聞く機会を持つことが出来ました。
私は保育士に関する制度史を研究しています。保育士の専門性というものを、制度史の中から解き明かすことを専門として研究しているところです。
今回の事例は、保育士が保育士として判断するエッセンスがたくさんつまっているので、ぜひ理論的に分析してみたいと申し出たところ、快諾して頂き、実現したものです。
担当者:すべての子どもが無事に避難できたのは、奇跡というよりも、普段からしっかりと準備されていた保育士の努力が実を結んだのだと感じました。この事例がもっと広く知れ渡ってもよいのではないかと思います。
田澤先生:現場の先生からのニーズは高いようで、佐竹先生は現在、全国の保育所や小学校などからの依頼を受け、講演などを通して啓蒙活動をされています。
今回の論文もSERVEで公開しているとお伝えしたところ、「ではそちらも利用してよいのね」と喜ばれていました。先生の講演を聴き、気になった人がSERVEで論文を読むことができるという意味では、種はまけたのではないかと、ありがたく思っています。

<3.今後の研究について>
田澤先生:保育所について勉強しています。第二次世界大戦以降、保育所には制度だけでなく、現場で働いている保育士たちが「保育とは何か」ということを積み上げてきた歴史があります。そうした保育士たちが脈々と培ってきた文化を理論化して文章にすることが自分の仕事ではないかと思い、取り組んでいます。今後もしばらく続けていきたいと考えています。
担当者:現場で働く保育士の方にとってそうしたノウハウは、保育士間で伝えてゆき、子どもたちに還元していくことが根幹にあり、広く発表しようというところまでは手が回らないところがありますね。
田澤先生:そうですね。保育士にとって最優先することは子どもたちを保育することですからね。それに自分たちのことを客観的に評価しきれないところもあるかと思います。そうした立場ではない私が、元々持っている制度史の研究と、保育の実践の理念とをつなげていければと思い、自分のテーマにしています。

<4.学生に伝えたいこと>
田澤先生:学生時代にたくさん本を読んでほしいです。
私の授業では、リアルな準備がされていて、実像のある子どもを知っている作者が本の中にきちんと描き込んでいる作品を吟味し、紹介していくようにしています。そのような本を読むことで、作者とはもちろん紹介されている子どもとも出会うことができると思うからです。ですので、絵本や幼年文学でもよいので、たくさんの本を読み、作者と描かれている対象者と出会ってほしいと思っています。

<5.お勧めの本>
田澤先生:『中谷宇吉郎随筆集』
学生の頃から繰り返し読んでいます。
博士論文を書いている時に、最後の一冊として指導教授から勧められました。
中谷さんは、夏目漱石の弟子である寺田寅彦の弟子にあたります。雪の結晶を研究されていた方ですが、こうした随筆なども書かれていまして、とても平易な日本語を使った文章になっています。私の文章のお手本として、今でも参考にしています。
担当者:物理では有名な方ですが、そのような一面があったのですね。読んでみたくなりました。

田澤先生:『岩波少年文庫』
こちらは自分が子どもの時に読み、自分の子どもにも読み聞かせをしました。大人になって音読すると、また新たな味わいがあり、二度楽しむことができました。
担当者:文字も大きく読み易いので、幅広い年代で楽しめる本ですよね。私も時々読み返したりすることがあります。先生はその中でも、特にお勧めの一冊はありますか。
田澤先生:『メアリー・ポピンズ』が好きです。岩波少年文庫は大人になってから初めて読むということはあまりないでしょうから、少年少女の時代に出会っていると、一生楽しめる本だと思います。


オススメ①

オススメ②

中谷宇吉郎 著P.L.トラヴァース 作 / 林 容吉 訳
『中谷宇吉郎随筆集』『風にのってきたメアリー・ポピンズ』
岩波書店, 1988.9岩波書店, 1963.11
図書館所蔵あり(1階文庫新書)914.6||N44n図書館所蔵あり(4階児童書・絵本)909.3||Tr2m
**************************************************************************************
まだまだ記憶に新しい震災時の保育所の対応に関してお話を伺えました。お話も大変興味深かったのですが、先生の研究室も木製の絵本専用の本棚があったり、ぬいぐるみが置いてあったりと、楽しい雰囲気でした。インタビュー終了後に、絵本やパペットを触らせていただきました。写真も、鼻が動く象の人形を持った先生を使わせていただいております。
2500件目からそれなりの時間をかけての3000件目となりました。歩みは遅くとも着実に一歩一歩進んでいきたいと思います。(田山)

インタビューページにもどる   トップページにもどる