SERVE公開11周年記念インタビュー

SERVE公開11周年記念インタビュー
聖学院学術情報発信システム「SERVE」は2020年2月28日に公開11周年を迎えました。この間、SERVEの活動にご理解とご協力をいただいた皆様に厚く御礼申し上げます。

SERVE公開11周年を記念し、基礎総合教育部准教授であり、司書課程担当でもある
塩崎亮 先生にインタビューを行いました。

<1.SERVEが11周年を迎えますが、そこで一言お願いします。>


むかし、国立国会図書館というところで働いていたのですが、そのうちの2年間、国立情報学研究所(以下NII)に出向し、「機関リポジトリ」を担当しました。ちょうど東日本大震災が起きた年です。どこも非常に緊迫していましたが、そんな中です。来てすぐの6月に300人規模のイベントをやることだけが決まっていて、ドタバタと対応したことを思い出しました。当時のNIIでは、全国の大学や研究機関に対し、機関リポジトリの構築などを支援するために助成金を出しますよ、という事業が展開されていて、その成果を発表するイベントを大々的にやっていたのです。

 そうそう、聖学院大学からも発表してもらいました。小規模大学ですけど、独自にリポジトリを構築されていましたし、助成金の書類作成もいきとどいていて、「すごくがんばっているな」という印象が強く、記憶に残っています。というわけで、以前はおカネを出す側にいたんですね、わたし。いまはご縁があってこちらの大学におかせていただくことになり、不思議な感じです。JAIRO Cloud*の立ち上げにも当時関わりましたが、聖学院大学はそのJAIRO Cloudへの移行もだいぶ早かったですよね。
*NIIとオープンアクセスリポジトリ推進協会が共同運営するクラウド型の機関リポジトリ環境提供サービス


職員以前のSERVEの構築環境は色々と問題がでてきていました。併せて学内にサーバーをなるべく置かないという動きもあり、移行いたしました。

11年ですか……、時代の流れに乗って成長されてこられたのはすばらしいです。
リポジトリ自体も全国にこれだけ広まったのですから、委託事業はやはり大事でした。ヒトの力も大きいですが、資金面の助成も大きく影響しましたね。


職員聖学院大学でも以前から研究・教育資源の公開システムを立ち上げたいという考えはあったそうですが、やはり資金が問題となっていました。そこでCSI委託事業に、申請をしたと聞いております。

聖学院大学は数ある大学の中でも、先行していたのだと!


<2.SERVEが20周年をむかえるためには?>
そもそも機関リポジトリは、学術ジャーナルの価格高騰への対抗という流れからでてきたものです。国内では、主に紀要のプラットフォームとして拡大してきましたね。SERVEもそうだと思います。でもこの基盤ができていたからこそ、博士論文を原則インターネット上で公開するという規則改正も実現されました。職員数も少なく大変だと思うのですが、他大学と比べれば研究者との距離が近いので、紀要以外のコンテンツをもっと集められないでしょうか。特定の先生を狙ってピンポイントで攻めるなど……。ぜひ試みていただけたら。

職員何人かの先生からは、研究会での発表資料を頂いております。

機関リポジトリの王道戦略ですから、ぜひ続けてください。それ以外に、「大学」全体のものへとコンテンツを拡充する方向も必要ではないでしょうか。それには関連部署との連携が欠かせませんが、気になるのは広報との関係です。大学のブランディングという意味では、デザインが浮いてません?せめてブランドカラーを統一するなど……。

職員SERVEの画面の色は法人カラーを意識しています。これは設立当初のメンバーの、将来的にSERVEを聖学院全体のリポジトリに、という思いがあります。

なるほど、機関リポジトリの「機関」は大学でなく「学校法人」なのですね。これはおもしろいです。論文に限らず、「機関」のなかで生みだされた資産を収集・公開し、コンテンツの種類を増やしていくのは、この法人の一つの強みになると思います。ちなみに学術の世界では、オープンサイエンスや研究データ管理の動きが活発化してきていますけれど、難しいとは思いますが、『論叢』の論文と紐づく研究データもあわせて掲載できるようになると格好いいですね。


<3.これからの図書館に期待することは何がありますか。>
勝手に期待を述べてよいのなら、今期末に電子ジャーナルが拡充されましたよね。そのまま飛躍していって欲しいですが、データベースも増やせないでしょうか。


職員データベース導入の要望はあるのですが、ご要望が多種多様なため、ご希望に沿えずにおります。

規模の経済が働かないですよね。
ちなみに、「これからの学術情報システム構築検討委員会」では、これまでCAT*の移行がメインテーマでしたが、紙だけでなくデジタルの資料もまとめて検索できる「統合的発見環境」をつくるべきではないかという議論もなされています。現在、文献複写依頼(ILL)は紙ベースですが、たとえば所属機関が契約していない電子ジャーナルの論文も紙と同じようにどこかからスムーズに取り寄せられないか、といった話です。聖学院大学だけでできる話ではないですが、学術コミュニティ全体でそのようなシステムが実現できたら、特に小規模大学の研究者にとっては非常に助かるはずです。
*NACSIS-CAT。オンライン共同分担目録方式により全国規模の総合目録データベースを形成するためのシステムで、現在新バージョンへの移行が進められている。


<4.アーカイブもしくはリポジトリ利用で助かったことはありますか。>
「デジタルアーカイブ」や「リポジトリ」をつくる側にいたこともあり、もはや利用することは日常になってしまっています。個人ですべての情報を保存・管理することは、スペース・寿命の問題で不可能ですから、図書館やアーカイブス機関などの組織が社会には欠かせません。みんなが助けられているはずです。Googleなどもありますが、図書館やリポジトリ、アーカイブス機関があるからこそ、(すべてではもちろんないですが)ウェブ上で過去の情報も含めて調べることができるわけです。


<5.今後の研究予定などを教えてください>
デジタル情報の保存問題に関心がありまして、特に、パーソナルデジタルアーカイブなどとも呼びますが、個人が作成・管理するデジタル情報の長期利用について研究を進めています。あくまでたとえばですが、ツイッターなどはいままで意図的には残せなかったような記録といえますが、100年後も読めるかというと、あやしいですよね。でもそれでいいのでしょうか。ソーシャルメディアのデータも、報道や研究の場で日々参照されているわけですが、その証拠が残っていないという未来もありえます。


  あるいは、個人文書などとも呼びますが、作家や政治家らの日記や手紙等はこれまでも一部保存されてきたわけですが、デジタル時代に生みだされたものはどうなってしまうのでしょうか。たとえば電子メールです。英米の図書館やアーカイブズ機関では、電子メールなども特殊コレクションとして集めだしているところがあります。こういった個人のデジタル資産は「研究データ」という捉え方も可能で、学術コミュニケーションの領域で取り組まれているテーマですが、その動きとうまくリンクさせて研究を展開できたらいいな、と考えています。


職員電子メールも図書館などで扱うというのは、新しい感覚ですね。

そうですね。ウェブ上で公開されているものだけでなく、公開されていないけれども、将来的に貴重な資料となりうるデジタル情報が膨大に生みだされているわけですが、図書館などの保存機関はどのように対応していくのが望ましいのか、少なくとも議論が必要です。


<6.学生に伝えたいこと>
教員歴は2年目ですが、おとなしい学生が多いなあという印象です。「アクティブ」に学んで欲しいですので、授業にカードゲームなどを取り入れることを考えています。「学ぶことは楽しい」ということを少しでも伝えられれば。

職員読書に関してはいかがでしょうか。

「知りたい」とか「読みたい」という欲求が大事だと考えています。人から読みなさいといわれるの、わたしは苦手で……。何かレポートを書くために読まざるをえない本と向きあうこともあるでしょうが、「知りたい」「読みたい」という自分の気持ちや出会いを大切にして欲しいです。


<7.おすすめの本>


というわけで、ヒトに本をすすめるのに違和感はありつつも……。

職員おすすめ本を見て、先生の思考や人柄が伝われば、という思いで毎回伺っております。




では、「保存する」「残す」という自分の関心と絡めて、題名に「忘れられた」とつく本を2冊。


宮本常一『忘れられた日本人』岩波書店, 1984年 [1階文庫・新書 380.1||MI77]

学生の頃に読んだなつかしい文庫本の一つですが、日本各地の老人たちから民間伝承を聞いてまわった著者が、下世話なネタを含めて、これまで文字として「記録」されてこなかった、「歴史」から“忘れられた日本人”の暮らしぶりを生き生きと描いているものです。図書館の分類では「380(民俗学)」になりますが、そういった枠は関係なく、読みものとしても面白いですので、どうぞお気軽に。



カズオ イシグロ『忘れられた巨人』早川書房, 2015年 [準備中]

同郷(長崎県)ということから、勝手に親近感を抱いているノーベル賞作家の作品です。「記録」がほとんど残っていない時代を舞台とした小説ですが、個人的な「記憶」というより、社会的な「記憶」がどのように形成されていくのか、はたまた忘れ去られていくのかなど、現実世界も思い浮かべながら楽しめる内容になっています。見た目は分厚いですが、文庫版もあります。



オススメ①オススメ②
宮本常一著カズオイシグロ著
『忘れられた日本人』『忘れられた巨人』
岩波書店 1984.5早川書房 2017.10
図書館所蔵あり図書館所蔵あり
出版者違い※準備中
・岩波文庫
380.1||Mi77
・ちくま日本文学全集
918.6||C44(2)||53

 ようやく11周年記念インタビューを公開することができました。今回は特にお待たせしてしまい、また最後の最後で異なる原稿で作業を進めてしまうという凡ミスまでやらかしてしまい、反省に反省しきりのインタビュー公開作業でした。インタビュー自体は時間を大きく超えてしまうほど興味深いお話をたくさん聞くことができました。本インタビューはそれらを濃縮したものになります。
来年度はWEKO3への移行も予定されており、このページもどうなるかわかりませんが、よろしくお願いいたします。(田y)